動物を家族とする喜びと別れの経験が、
獣医としての使命に繋がる。
獣医師を目指したきっかけは何でしょうか?
幼い頃から動物が大好きで、共に生活を送ってきました。犬や猫、虫、魚などのさまざまな動物たちと過ごす時間はとても楽しく、僕にとって家族同然の存在でした。ただ、動物を飼うということは必ず別れの時がやってきます。病気による悲しい別れも何度もありました。そういった辛い経験を通じて、「自分が彼らの主治医になってあげられたら……」と自然に考えるようになりました。
当時は別れが辛かったですが、それらの経験があったからこそ「動物たちの健康寿命を延ばしてあげたい」「高齢の動物たちをできるだけ長く生かしてあげたい」という強い願いを抱くようになりました。その願いが、今の僕の診療にも繋がっていると思います。
岡山県倉敷市で開業した理由は何でしょうか?
僕自身、生まれも育ちも倉敷市です。
獣医療を学ぶために他県の都市部で数年を過ごしたため、最初は都市部での開業も視野に入れていましたが、ご縁があってこの地で開業するに至りました。
開業当初は学んだことを十分に活かしきれずに葛藤することもありましたが、それから長い時間をかけて多くの経験を積み、今のナディア動物クリニックが確立されました。
今では、生まれ育ったこの地で、多くの動物たちや飼い主様に医療で貢献できることを嬉しく思います。
眼科診療に注力されているのは何故でしょうか?
きっかけは、動物の高齢期医療の重要性を知ったことでした。
先ほども話の中で触れましたが、僕は昔からずっと「高齢の動物を健やかに長く生かしてあげたい」という気持ちが強くありましたので、学生の頃から動物の高齢期医療について学んでいました。その一環として、眼科の知見や技術を習得することになりました。
人間でも高齢になると目が見えにくくなったり、病気になったりしやすくなりますよね。それは動物でも同じなんです。高齢の動物たちの健康を守るためには、眼科診療が必要になります。
今でこそ全国に技術を持った先生方がいらっしゃいますが、僕の学生時代は動物の眼科診療の知見を持った先生がほぼ居ませんでしたから、学ぶ場が圧倒的に少なかったんです。当時、日本で唯一ともいえる先生のもとで学ぶことができたのですが、朝から晩まで研修や技術習得の毎日で…本当に大変でした。ただ、眼科診療を学ぶことが動物たちの健やかな生活に繋がるんだというモチベーションがありましたので、それで頑張ってこれたんだと思います。
あの頃から積み上げた知見や経験が、今の診療に活かされていると日々実感しています。
動物たちの健康を最優先に、
正直で誠実な診療を提供。
動物病院経営者として、スタッフや患者の飼い主たちとの信頼関係を築くために心がけていることは何ですか?
「正義を守ること」「されたら嫌なことはしない」ということを大切にしています。
正義というのは、診療において間違ったことをしない、嘘をつかない。動物たちの体調が絶対に良くなることを前提に診療を行っています。良くなる“かもしれない”……曖昧な薬や治療は勧めていません。
また、僕自身考えたことをそのままアウトプットする性格なので、飼い主様には何でも濁さずにストレートに伝えるようにしています。それが良いことでも、悪いことでも。ペットは飼い主の皆さんにとっての家族ですから、はっきりと症状を伝えることでショックを受けてしまう方もいらっしゃるんです。誤解なく伝えるためには必要なことだと思っていますが、時には僕の物言いが冷たく感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
そんな僕の性格も当院のスタッフたちはよくわかってくれているので、飼い主様に寄り添ってフォローをしてくれています。彼女たちのおかげで、うまく連携が取れていると感じています。
されたら嫌なことというのは、主に動物視点での話になります。人間と会話ができない分、動物たちには一層寄り添った対応が必要だと考えています。動物たちがされたら嫌なことはもちろんしないし、飼い主様がしている対応が動物たちにとってNGなことだった場合は、はっきりとお伝えすることもあります。
動物や飼い主にとって、どんな存在の医院でありたいですか?
飼い主様の「真実を知りたい」という気持ちに応えられる病院でありたいです。
医師として動物の病気についてはっきりと伝えるのは当然のことだと思っていますが、一方で飼い主様にとっては、真実を知るというのはある意味残酷なことでもあるんです。飼い主様からの心証を悪くしないために、そこの伝え方を曖昧にしてしまう病院もありますが、それは結果的に飼い主様のためにも動物のためにもならないと考えています。
獣医学や自然科学に則って白黒つけるというのはとても大切なことだと思っています。これからも真実を伝えられる医師でありたいですね。
今後の展望を教えてください。
これまで通りに眼科診療は専門医として続けていくつもりです。
一般診療においても、他院でさじを投げられた高齢動物の治療や、飼い主様の負担の少ない維持治療などは、きっちりとやっていきたいです。
また、現代の動物医療にかかる費用は昔に比べると恐ろしく高騰していますが、それほどの費用をかけなくとも動物の健康を維持することは実現可能だと考えています。そんな思いもあって、当院では「引き算の治療」を心がけています。新薬は正確な情報が出揃うまで扱わずに、安価で効果がよく知られている薬剤を使用しています。
経済的に豊かではない方でも動物を飼える環境を提供できるような獣医療を実現していきたいです。