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ナディア動物クリニック・動物眼科
犬の目 ナディア動物クリニック・動物眼科

緑内障

glaucoma

症例写真がございますので、閲覧の際にはご注意ください。

緑内障とは

緑内障とは、眼の奥にある網膜の神経節細胞が減少または死滅することで視覚が障害される疾患です。ほとんどの犬および猫の緑内障は、眼圧の上昇(眼球が硬くなること)によって発症します。特に犬では眼圧上昇の程度が重度であることが多いため、しばしば激しい痛みを伴い、わずか1〜2日で永久に視覚を奪われてしまう恐ろしい疾患です。

なお、眼圧の上昇は、瞳の裏側にある毛様体突起部で産生される水(房水)が眼球外へ排出されにくくなり、眼球内に溜まることで引き起こされます。

犬の散歩

緑内障の原因

眼圧が高くなる原因が特に存在せず、その動物の素因によって眼圧が高くなるものを原発性緑内障(PACG)と呼びます。一方、何らかの他の眼疾患が原因で眼圧が高くなるものを続発性緑内障と呼びます。

原発性緑内障(PACG)

日本で最も一般的に見られる犬の原発性緑内障は、原発性閉塞隅角緑内障(primary angle closure glaucoma, PACG)です。この疾患は、眼の中の水を排出するための排水口が塞がれる形態異常により、眼球内の水が増加し、眼圧が上昇することで発症します。
PACGには、柴犬やその雑種、コッカースパニエルなどの好発犬種が存在します。遺伝的な素因に加えて、前眼部の加齢性変化もその発症に関与しています。また、両眼に発症することが多いものの、通常は同時には発症しません。

続発性緑内障

続発性緑内障は、慢性化したぶどう膜炎や水晶体脱臼/亜脱臼、網膜剥離、眼内腫瘍、眼内出血などが原因で発症します。日本では、網膜剥離後のシーズーや白内障手術後のトイプードルに多く見られます。猫の緑内障のほとんどは続発性であり、若齢~中年齢ではウイルス感染によるぶどう膜炎に続発するケースが圧倒的に多く、高齢になるとメラノーマなどの眼内腫瘍に続発するケースが増えます。

こんな症状があったら要注意

目が痛い

一般的な犬の緑内障(PACG)のほとんどは突然発症し、ご家族は「目が痛い」ことに最初に気が付きます(図1 )。多くの場合その痛みは非常に強く、犬はほとんど目を開けることができず、涙を流し、瞼や顔全体が痙攣しているように見えることもあります。この症状は角膜潰瘍と同様に、「目が痛い」と正しく判断されないこともありますが、角膜潰瘍の場合は痛みが徐々に強くなるのに対し、緑内障では急に強い痛みが現れることが多いようです。食欲がなくなり、横たわって動こうとしないワンちゃんも少なくありません。

目が痛いわんちゃん
(図1)

この症状は、眼圧が著しく上昇したときに見られるものです。PACGの初期段階では、自然と眼圧が正常化して痛みが消えることもあります。しかし、それでも安心せずに必ず病院で眼科検査を受けたほうが良いでしょう。近いうちにこの症状は必ず再発し、眼圧が自然に正常化することはなくなり、最終的には永久に視覚を失ってしまう可能性が高いことを知っておいてください。症状が治まってから来院する場合には、「目の痛みが強かった」ことと「症状が急に始まった」ことを必ずお伝えください。

「角膜潰瘍」ページでも述べましたが、痛くて目を開けようとしないワンちゃんに対してもきちんと目を開いて診察しないと、正しい診断と治療はできません。嫌がっても診察を行う必要があることをご理解の上でご協力ください。


白目が赤い(充血している)

すべての緑内障の目では白目が赤くなります。しかし、痛みのせいで目を開けないため、しばしば見落とされることがあります。発症初期には急激な眼圧上昇によって循環障害が発生し、それに伴って結膜の充血と浮腫が発生します(図2)。時間が経過して循環障害の急性症状が治まってくると、血管が大きく膨らんで蛇行してみえる上強膜の鬱血が目立ってきます(図3)。この鬱血のほうが緑内障に典型的な充血と認識している獣医師が多く、発症の初期の充血を見て「結膜炎」と診断されてしまうことも珍しくありません。

潰瘍が治りかけて目の痛みがなくなると、目が開くようになってご家族が角膜の凹みを認識できるようになります。そのような場合は角膜の凹みを心配する必要はありませんが、獣医師の指示に従って治療は継続してください。

(図2)
(図3)

発症初期には自然に眼圧が下がることがあると前述しましたが、眼圧が上がって目が痛いときにはご家族が気付かず、眼圧が下がって目の痛みがなくなってから白目が赤いことに気付く場合もあります。緑内障になりやすい犬種のご家族は、充血に気付いたら早めに病院へ行かれることをお勧めします。


角膜が青白い(混濁している)

角膜は内側にある角膜内皮細胞の働きによって透明性が保たれています。しかし、眼圧が上昇するとこの機能に障害が起こり、結果として角膜全体が青白く濁って見えるようになります(図4)。緑内障を発症したほとんどのワンちゃんでは、程度の差はあれど角膜は濁ってしまいますが、治療によって眼圧が下がると時間とともに角膜は透明に戻ります。しかし眼圧が高くなった状態が長く続くと、角膜の濁りが完全には消えなくなることもあります。

緑内障の犬の目
(図4)

目が見えない

緑内障の最も恐ろしい症状は視覚障害です。日本人は緑内障が失明の主要な原因とされていますが、失明に至る確率自体は低いとされています。これは、多くの患者がいるためにこのような結果となっています。犬においても、緑内障は失明の主要な原因とされていますが、失明する確率が高く、無治療ではほぼ100%失明すると言われます。さらに、日本人の緑内障は何年もかけて少しずつ視覚(視野)障害が進むのに対し、犬の緑内障は数日で不可逆的な視覚喪失に至ることが一般的ですので、診断から治療まで速やかな対応が必要です。

目の痛みや充血、角膜の混濁に比べると、ご家族にとって視覚障害は気づきにくい症状かもしれません。もし反対の目の視覚が正常であれば、一見するだけでは視覚障害に気付くことは難しいでしょう。


目が飛び出してきた

緑内障が慢性化すると眼球は反対眼に比べて拡大し、飛び出して見えるようになります(図5)。急性期に比べると眼圧が下がったり、あるいは眼圧が高くても角膜の神経が麻痺したりすることで強い目の痛みは目立たなくなります。一方で、まばたきの回数が減ったり、まばたきしても瞼が完全に閉じなくなり、角膜の中央部が乾燥気味になったりすることで変性が起こり、最終的には角膜潰瘍が発生するのが一般的です。この時期になると、角膜の乾燥や変性を防ぐための点眼治療が必要となります。
今後の生活の質を保つためには、眼球摘出あるいは強膜内プロテーゼ挿入術(眼内義眼手術)を考慮する時期と思われます。詳しくは「慢性期の治療」をご覧ください。

緑内障により目が飛び出してきた犬
(図5)

緑内障の検査

一般的な緑内障(原発性閉塞隅角緑内障 – PACG)の診断には、眼圧測定をはじめとした一般眼科検査が主に使われます。一方、眼圧が高くならない緑内障(原発性解放隅角緑内障など)の診断には、光干渉断層計(OCT)検査を実施します。また、続発性緑内障が疑われる場合には、その原因を明らかにするために血液検査やレントゲン検査、エコー検査などの画像診断を実施することもあります。

一般眼科検査について
犬の眼科検査

眼圧測定

眼圧測定は、緑内障の診断において最も重要です(図6)。眼圧の測定値が正常値を上回っていることを確認することで、緑内障であると診断できます。犬や猫の正常な眼圧は10~20mmHgとされますが、以前の測定値あるいは反対眼の測定値より5mmHg以上高い場合は、緑内障を疑うことがあります。なんらかの症状が現れて来院したPACGの犬のほとんどは眼圧が40mmHgを超えていますので、眼圧を測定さえすれば容易に診断することが可能です。

犬の眼圧測定
(図6)

ここで忘れてはいけないのは、PACGの発症初期に高眼圧が発生しても自然に眼圧が下がることがあるということです。来院時に正常な眼圧あるいは低い眼圧になっていると、眼圧測定のみでは診断ができません。このような現象が起こる可能性があることを意識していないとぶどう膜炎や結膜炎と誤診してしまいます。このような場合には、「眼底検査」が診断の助けになります。


視覚検査

視覚の有無、つまりその目が見えているかどうかを確認するためには視覚検査が行われます。その代表的な検査としては、手を目の前にかざしてまばたきが起こるかどうかを評価する威嚇まばたき反応(メナス反応)や、目の前で落とした綿球を目で追うかどうかを評価する綿球落下試験などがあります。視覚の有無によって治療方針が変わりますので、視覚検査を実施することはとても重要です。
発症初期であれば、視覚が認められなかった症例でも眼圧が正常化した後に視覚が回復することがあります。逆に、はじめは視覚のあった緑内障眼が視覚を失ってしまうこともあります。そのため、診断から治療の期間を通して、繰り返し視覚検査を行うことが必要です。


細隙灯顕微鏡(スリットランプ)検査

細隙灯顕微鏡(スリットランプ)を用いて前眼部を大きく拡大して観察し、緑内障の診断に必要な結膜の充血や鬱血、角膜の浮腫、虹彩(ひとみ)の状態などを評価します。眼圧の測定結果と合わせて緑内障であると診断できたとしても、必ずしもPACGであるとは限りません。眼圧上昇の原因となる他の疾患や異常所見がないかについても評価して、続発性緑内障の可能性についても評価を行います。

ぶどう膜炎に続発した緑内障

前房中にフィブリン塊や蓄膿の存在、虹彩後癒着や膨隆虹彩などが観察される場合には、ぶどう膜炎に続発した緑内障であることが疑われます。ただし発症初期のPACGでは、ぶどう膜の虚血に起因した房水フレア(図7)が観察されることが一般的です。房水フレアはぶどう膜炎の症状の一つとされますが、この所見だけではぶどう膜炎に続発した緑内障と判断することはできません。ぶどう膜炎の有無によって緑内障の治療薬の選択が変わってきますので、その評価は重要です。

進行した白内障を無治療のまま放置すると、ぶどう膜炎が起こった後にしばしば緑内障が続発します。また、白内障に伴って膨張した水晶体によって隅角が圧迫されて眼圧が上昇することもあります。

ぶどう膜炎に続発した緑内障
(図7)

水晶体の変位に続発した緑内障

まだ眼球が拡大していないにもかかわらず水晶体の位置がずれている(脱臼あるいは亜脱臼)場合には、水晶体の変位に続発した緑内障(図8)の可能性があります。水晶体の変位がある場合も緑内障の治療薬選択に影響があるため注意が必要です。

水晶体の変位に続発した緑内障
(図8)

眼内に発生した腫瘍が続発させた緑内障

高齢の動物では、眼内に発生した腫瘍が緑内障を続発させることも珍しくありません(図9)。細隙灯顕微鏡による観察で前房内あるいは虹彩に腫瘤が認められることもありますが、虹彩よりも後方にある腫瘍は確認できません。その場合は超音波検査で眼内を精査する必要があります。特に虹彩が前方に変位し前房が浅くなっている場合には、腫瘤が後眼部に存在する可能性が高いことから、必ず超音波検査を実施するべきだと思います。

眼内に発生した腫瘍が続発させた緑内障
(図9)

眼底検査

視神経が障害される緑内障は、人間でも動物でも共通の疾患です。眼底検査では視神経乳頭と網膜の変化を直接観察することができますので、緑内障の検査においてはとても重要な検査と言えます。PACGの初期段階では、眼圧の上昇により視神経乳頭上の血管の数が減少し、細くなって虚血性の変化を示します(図10)。しかし、眼圧が正常化した直後は逆に血管が拡張し、鬱血して見えます(図11)。PACG発症初期の眼圧測定では診断しきれないタイミングでも、眼底検査ではこれらの変化を検出することによって正しい緑内障の診断を行うことができます。
眼圧が上昇したまま時間が経過すると、視神経乳頭の虚血性変化が進んで視神経萎縮が起こってきます(図12)。視神経乳頭は小さくなり、血管はほとんど消失します。こうなると眼圧が正常化しても血行が回復することはありませんし、もちろん視覚が回復することもありません。さらに高い眼圧が進むと視神経乳頭全体が円形化し、凹んだ形状を示すようになります(図13)。

人と同様に、眼圧が正常あるいはやや高い程度でも視神経に緑内障性変化が起こる犬がいます。発症から時間が経過して診察を受けられるワンちゃんが多いため、視神経乳頭にラミナドットサインと呼ばれる徴候(図14)が見られます。眼底検査だけで診断できることが一般的ですが、視神経乳頭の変化が不明瞭な場合には光干渉断層系(OCT)検査を実施して、視神経乳頭の変化を調べることが必要となります。

眼底検査
(図10)
眼底検査
(図11)
眼底検査
(図12)
眼底検査
(図13)
眼底検査
(図14)

治療方法

緑内障の治療で最も大切なことは、できるだけ速やかに眼圧を正常化させることです。眼圧が高い間は視神経へのダメージが続き、視覚障害が進行します。視神経へのダメージはほぼ不可逆的(元に戻らない状態)ですので、最終的に眼圧が下がれば良いというわけではなく、速やかに眼圧を低下させないといけません。

しかし、経過が長く、視覚回復の可能性が全くない慢性緑内障の眼に対しては、眼圧を下げることに固執するのではなく、合併症を含めた現在の問題点を整理し、その上で適切な治療方針を決めていきます。

急性期の治療

原発性緑内障(PACG)の場合

急性期のPACGに対して、眼圧を下げるために最も有効な薬剤はプロスタグランジンF2α誘導体の点眼液です。その代表的な薬剤はラタノプロストであり、動物用の製剤も販売されているため、利用しやすくなっています。トラボプロストなどの同じ系統の薬剤も利用可能であり、効果を示すレセプターが異なることから、ラタノプロストの効果が不十分な場合の代替薬として使用されます。

これらの点眼液は強力な眼圧降下作用を持つ一方で、炎症を誘発したり、縮瞳(瞳孔が開かない状態)を引き起こす副作用があります。そのため、ぶどう膜炎や水晶体脱臼に続発した緑内障では、病態を悪化させる可能性があり、使用が制限されます。

急性期のPACGと診断された場合は、速やかにラタノプロスト等を点眼し、10〜20分間隔で眼圧の測定を繰り返し、眼圧が下がっていくのを確認します。眼圧が下がらない場合は、点眼を繰り返すこともあります。それでも眼圧が十分に低下しない場合には、眼に注射針を刺して眼房水(角膜の後方の貯留液)を少量抜いて一時的に眼圧を正常化させることが可能です。眼圧を一旦正常化させることができれば、短期的にはラタノプロストなどの点眼薬を用いて眼圧を管理することができます。
しかし、点眼治療のみで長期的に眼圧を低く保つことのできるPACGのワンちゃんはごくわずかしかいません。そのため、視覚が温存できているワンちゃんには以下のような眼圧を安定させるための外科治療を推奨するようにしています。

隅角インプラント移植術

眼房水が眼内に過剰に貯留することで眼圧上昇が発生します。これを解決するために、アーメッド・バルブと呼ばれる医療器具(図15)を使用します。この器具を用いて、眼房水を眼外に排出するためのシャントチューブを前房内に設置し(図16)、眼外のプレート部分へと眼房水を導きます。シャントチューブとプレート部分の連結部分には眼圧によって開閉するバルブ(調圧弁)が存在しており、眼圧は8~12mmHgに保たれるようになります。

アーメッド・バルブ
(図15)
隅角インプラント移植術
(図16)

この手術は手技が煩雑ですが、手術直後から眼圧が安定するため、非常に信頼性が高いとされています。しかし、長期的には前房内に析出したフィブリンというタンパク質のせいでチューブが詰まったり、プレート部分の周りで組織反応が起こって排出された眼房水が吸収されなくなり、再び眼圧上昇が起こることがあります。

経強膜レーザー毛様体凝固術

医療用半導体レーザー手術装置(図17)を用いて、眼房水を産生する毛様体を熱凝固させる手術です。ごくわずかな結膜の切開だけで簡便に実施できますが、一度の処置だけでは眼圧のコントロールが不十分であったり、処置後に起こる炎症によって一時的に高眼圧が発生したりするなどの欠点があります。

医療用半導体レーザー手術装置
(図17)

続発性緑内障の場合

他の眼科疾患に続発した緑内障では、PACGと違って眼圧上昇がゆるやかなことが多く、眼圧の上昇がいつから起こっていたのか分からないことが珍しくありません。視覚が残っていることもあれば、すでに失明していることもあります。眼底検査によって視覚が回復する可能性を評価することもできますが、しばしば角膜や水晶体が濁っているために眼底検査ができないこともあります。

続発性緑内障の治療は眼圧を下げることに加えて、原因となる眼科疾患の治療が必要となります。また眼圧を下げるにあたって、プロスタグランジンF2α誘導体の点眼液を副作用の問題から使用できないことが多く、当院では以下の点眼薬を単独で、あるいは併用して使用します。

ぶどう膜炎に続発した緑内障の治療

ぶどう膜炎に続発した緑内障(図18)については、細菌感染のないワンちゃん・ネコちゃんにはステロイドの点眼(+内服)と炭酸脱水酵素阻害薬の点眼を併用します。治療の開始から数日のうちにぶどう膜炎が落ち着くとともに眼圧が正常化し、その後は炭酸脱水酵素阻害薬を休薬できることも珍しくありません。

ぶどう膜炎に続発した緑内障
(図18)
水晶体の変位に続発した緑内障の治療

水晶体脱臼あるいは亜脱臼に続発した緑内障のワンちゃん・ネコちゃんはすでに失明していることが多く、慢性期の緑内障として治療することが一般的です。水晶体が前方に脱臼してから時間が経っていないワンちゃん(図19)・ネコちゃんでは、眼圧の測定値が高いものの実際の眼圧が高くない(真の緑内障ではない)ことが多く、視覚が残っていることも少なくありません。脱臼した水晶体を外科的に除去することで眼圧が安定し、視覚を温存できる可能性が高いため、手術をお勧めする場合もあります。

水晶体の変位に続発した緑内障
(図19)

脱臼に気付かずにプロスタグランジンF2α誘導体の点眼液を使用すると、眼の痛みが強くなったり、瞳孔ブロックが生じて実際の眼圧が高くなったりするため、注意深い眼科検査が必要です。また、角膜を強く圧迫して水晶体を後方に落とす治療法もありますが、この処置を行うと水晶体の摘出手術が困難になったり、手術の成功率が低くなったりします。そのため、この処置を受ける際は必ず水晶体摘出手術を実施しないことを決定した上で行うようにしてください。

眼内に発生した腫瘍が続発させた緑内障の治療

高齢のワンちゃん・ネコちゃんでは眼内に発生した腫瘍が緑内障の原因となることがあります。視覚が残っていても速やかに眼球摘出を行うことが治療の第一選択になる場合がほとんどです。理由としては、眼球摘出が遅れると腫瘍が眼球外に転移する可能性があるためです。
猫の場合、瀰漫(びまん)性虹彩メラノーマという悪性腫瘍は進行がゆるやかであることから、眼球摘出の適期を見極めつつ、長く視覚を維持できるように手術を遅らせることがあります。

慢性期の治療

急性期治療の最大の目的は視覚を守ることであり、できるだけ早くどんな手を使っても眼圧を正常化することに力を注ぎます。一方、慢性期の緑内障では既に失明して視覚の維持という目的は無くなります。長期間にわたって高い眼圧にさらされた角膜は神経機能が低下するため、眼の痛みは和らぎますが、角膜知覚の低下や涙液の減少、まばたきの減少などが起こり、角膜の障害が起こりやすくなります(図20)。また、眼球が大きくなって角膜が露出したままになり、角膜の外傷や潰瘍などの発生率が高まっていきます。美容上の問題も無視できません。

眼圧を下げるための点眼治療に加えて、角膜保護の点眼治療を併用することで内科的な管理を継続することも可能です。しかし、来院や点眼にかかる手間と費用が長期にわたってかかる上に、角膜損傷などの危険性を常に抱え続けることはご家族とワンちゃんにとって大きな負担であると言えます。視覚の回復が期待できない緑内障眼には、緑内障の治療を終了させるために以下の二つの外科治療をお勧めする場合があります。

犬の角膜の障害
(図20)

眼球摘出

眼球摘出は、眼球と瞼を含めてすべて摘出し、瞼の皮膚を縫合・閉鎖する手術です。この手術では痛みや合併症を起こす可能性のある組織がなくなるため、術後のケアも最低限になります。また、抜糸後のケアも必要ありません。全身麻酔は必要ですが、眼球の状況に左右されず15〜20分の手術時間で済むことから、高齢動物でも安全に日帰り手術を行うことができます。

欠点としては顔貌の変化が大きい(図21)ことと、歯周病の重いワンちゃん・ネコちゃんでは眼球があった場所に膿瘍(膿が溜まる)が形成されることがあります。

眼球摘出
(図21)

強膜内プロテーゼ挿入術

見た目の変化が大きい眼球摘出術がご家族に容認されない場合には、強膜内プロテーゼ挿入術をお勧めします。この手術では眼球自体は残しつつ、眼球内の内容物を摘出し、代わりにシリコン製のボール(プロテーゼ)を挿入します。眼球が残ることから見た目の変化はほとんどなく(図22)、反対の眼と協調した眼球運動やまばたきも普通に行えます。手術時間は眼球摘出に比べると二倍程度かかり、全身麻酔の負担が増えるため、一泊二日の入院が必要となります。

ただし、角膜は残す必要があることから、角膜潰瘍などの重度の角膜障害がある場合には手術の適応となりません。また、慢性緑内障では角膜の神経が麻痺していることも多いため、一生涯にわたって角膜保護のための点眼が必要になる場合もあります。さらに、眼球が残っている以上は他の眼科疾患に罹ってしまうこともあります。

強膜内プロテーゼ挿入術
(図22)

予防方法・注意点など

ほとんどの原発性緑内障(PACG)は生まれ持った体質によって発症するため、緑内障を発症しやすい犬種のご家族は緑内障に関する知識をあらかじめ持っておくことが大切です。PACGは両眼に発症することが多く、緑内障を発症した反対の眼も同様に発症する可能性が高いと言えます。

そのため、眼圧上昇が起こっていなくても、予防として眼圧を下げるための点眼治療を始めることが推奨されています。必ずしも緑内障の発症を完全に防ぐことはできませんが、緑内障の発症をある程度遅らせることが可能であると考えられています。この予防的点眼治療の意義についてご家族に説明し、同意を頂ければ点眼治療を開始するようにしています。

犬と飼い主

また、緑内障の発症を完全に防ぐことはできませんが、発症するリスクを減らすことは可能です。通常、日常生活において眼圧はちょっとしたことで高くなりますが、正常なワンちゃんはすぐに正常な眼圧に戻すことができます。しかし、緑内障を発症するワンちゃんは、高くなった眼圧を正常に戻す能力が低下しています。以下のような、眼圧が高くなるようなシチュエーションをできるだけ避けることも、緑内障の発症を防ぐことに繋がると考えられます。

首を圧迫しない

最も大きなリスクとして挙げられるのは頸部の圧迫です。頸部を圧迫すると頸静脈の血圧が高くなり、眼球から眼の外に水分が排出されることが妨げられ、その結果として眼圧が高くなります。そのため、首輪やスカーフを着けるのは止めて、ハーネスなどの胴体に装着するものに替えることをお勧めします。
なお、人でもネクタイを締めることで眼圧が高くなることが実証されており、これと同じ原理です。


真っ暗にしない

真っ暗な環境では、目が慣れるに従って辺りが見えるようになりますよね。これは真っ暗になると瞳孔が開いて、より多くの光が網膜に届くようにするための生理的な反応なのですが、瞳孔が開いた状態が続くと眼圧が高くなるような負荷が加わります。健康体のワンちゃんであれば正常な眼圧に戻すことが簡単にできますが、緑内障を発症しそうなワンちゃんはそのまま高眼圧を起こしてしまう可能性があります。
そのための対策として、夜間も“目が慣れなくても歩けるくらいの仄かな明るさ”をご家族が保つようにしてあげると、眼圧が高くなるリスクを軽減することができます。


眼圧が高くなるお薬を与えない

下痢止めとして使用することが多い抗コリン剤を注射あるい内服すると、ほとんどのワンちゃんで眼圧が高くなることが知られているため、緑内障の発症リスクを持つワンちゃんへの投薬は避けてください。非ステロイド性消炎剤も潜在的に眼圧を高くする可能性がありますので、投薬には注意が必要です。

また、薬物ではありませんが、過剰な水分摂取で眼圧が上昇することも知られています。塩化ナトリウムなどのミネラルを含む飲料水(ポカリスエットなど)はリスクをさらに高める可能性があります。動物病院での点滴も同様のリスクがありますので、かかりつけの獣医師とよく相談の上、治療を受けてください。


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