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人や他の動物と同様に、ネコちゃんも緑内障になります。ただし、その症状は人やワンちゃんとは大きく異なり、治療法も違います。
ネット上でAIに質問しても、ワンちゃんの緑内障の情報に引っ張られ、誤った回答が返ってくることがあるので注意が必要です。
このページでは、ネコちゃんの緑内障の特徴を正しく理解していただき、適切な治療を受けるための情報を提供いたします。
症例写真がございますので、閲覧の際にはご注意ください。
猫の緑内障とは
人やワンちゃんなど他の動物と同様に、ネコちゃんの緑内障は眼球内の圧力(眼圧)が異常に高くなり、視神経に障害を起こす眼科疾患です。猫では原発性緑内障(生まれ持った素因が原因)はとても少なく、ほとんどが続発性緑内障(他の眼科疾患が原因)です。
ネコちゃんでも、眼圧が高い状態が続くと失明に至る可能性があります。しかしワンちゃんの緑内障と比べると視覚障害の進行がゆっくりなため、異常に気が付かないご家族も少なくありません。
中でも原発性緑内障では、ワンちゃんの緑内障のような「眼の痛み」に関連する症状(しょぼしょぼする、目がぱっちりと開かない、涙が多い、まぶたが痙攣する)があまり見られません。これも発見が遅れる理由の一つです。
また続発性緑内障では、原因となる他の眼科疾患の症状の方が目立つため、眼圧が高くなっていることに気付かれないケースもしばしばあります。
ネコちゃんでは、眼科疾患の種類にかかわらず、慢性化すると眼圧上昇を起こすことがよくあります。そのため、他の眼科疾患を治療している場合でも、繰り返し眼圧を測定し、眼圧上昇を見落とさないことが重要です。

緑内障の種類と原因
原発性緑内障
生まれもった素因によって発生するのが原発性緑内障(図1)です。しかしネコちゃんでは発生頻度は非常に少ないとされています。遺伝的な要因が関与していると考えられていますが、ネコちゃんでは明確な原因はまだ特定されていません。
ワンちゃんの原発性緑内障と比べると、片眼のみ発症することも多く、必ずしも両眼が失明するわけではありません。


いつの間にか両眼の大きさが違っていることに気付いて、ご来院されるご家族が多く見られます。
なお、図1-2は図1-1の症例の反対眼であり、緑内障を発症していない正常眼です。
続発性緑内障
ぶどう膜炎、前房出血、眼球内に発生した腫瘍など、他の眼科疾患を原因として起こる緑内障を続発性緑内障といいます。
ネコちゃんで最も多く、また深刻になりやすいのが、ぶどう膜炎に続発する緑内障です(図2)。ぶどう膜炎の原因として多いのはウイルス感染ですが、様々な眼科疾患や全身性疾患も原因となり、緑内障を引き起こすことがあります。
ワンちゃんでは、白内障を長期間放置するとぶどう膜炎が起こり、その結果として緑内障が続発することがよくあります。一方ネコちゃんでは、このようなケースはほとんど見られません。
また、緑内障の原因の一つとして水晶体脱臼が挙げられることもありますが、緑内障により続発することは稀です。むしろ、他の原因で起こった緑内障によって眼球が拡大し、その結果として水晶体脱臼が生じている場合のほうが多いと考えられます(図3)。


先天性緑内障
幼少期に発症する緑内障で、眼球の拡大によって気付かれることが多い疾患です。
拡大した眼球が大きく突出することがあり、この状態は「牛眼」と呼ばれます(図4)。
ただし実際には、出生直後に起こる結膜炎や角膜炎、眼内炎などによる続発性緑内障と混同されているケースも少なくありません。

悪性緑内障
悪性緑内障はネコちゃんに特有の緑内障で、ワンちゃんには見られないタイプです。
眼内で作られた水(眼房水)が後方の硝子体腔へ流れ込み、水晶体を前方へ圧迫することで眼圧上昇が起こることから、chronic aqueous misdirection syndrome とも呼ばれます。
通常の緑内障点眼薬では眼圧が下がらないため「悪性」と呼ばれますが、適切な治療によってコントロールすることは可能です。
猫の緑内障には、
以上の4つの種類が挙げられます。
本ページでは、その中でも原発性緑内障
および続発性緑内障を中心に解説します。
こんな症状があったら要注意
原発性緑内障について
強膜の血管が浮き出して見える
原発性緑内障でもっとも特徴的な症状が、強膜血管のうっ血です(図5)。
一般的な充血とは異なり、白目の地肌は白いままで、赤い血管だけが浮き上がって見えます。
この症状は、まだ眼圧の上昇が起こっていないごく初期の段階から見られることがあり、健康診断で偶然発見されることもあります。

角膜が青白く濁る
角膜の透明性は、角膜の内側にある角膜内皮細胞の働きによって保たれています。
しかし、眼圧が上昇するとこの角膜内皮細胞が障害されるため、角膜が青白く濁って見えるようになります(図6)。
ご家族の目には分かりにくいかもしれませんが、この段階ではすでに視神経にも一定のダメージが起こっている可能性があります。そのため、できるだけ早く受診することが大切です。
ただし、角膜の混濁は他の多くの眼科疾患でも起こる症状ですので、慎重に診断することが大切です。

左右の瞳孔の大きさが違う
高い眼圧が長く続くと、少しずつ強膜が伸びて眼球が膨らんできます。そのため、左右の眼球の大きさが違って見えることがあります(図7)。
ネコちゃんでは、このように眼球が拡大していても、ある程度の視覚が残っている場合があります。
そのため「もう見えていないだろう」と諦めず、必ず治療を受けることが大切です。


さらに進行すると、瞼を閉じることができないほど眼球が大きくなり、「牛眼」と呼ばれる状態になります(図4)。
瞼が閉じられなくなると、角膜の中央が乾燥し、やがてその部分が融解して強い痛みが生じることがあります。最終的には角膜に穴が開く(穿孔)こともあります。
角膜に白い線が見える
眼圧の上昇が続くと、強膜だけでなく角膜も伸びていきます。
しかし角膜を構成するデスメ膜は伸びることができないため、亀裂が生じます。この亀裂はデスメ膜線条痕と呼ばれ、肉眼でも白い線として確認できることがあります(図8)。
これは緑内障に特有の症状と言われますが、必ず見られる症状でもありません。

視覚の低下
ワンちゃんと比べると、ネコちゃんの視神経は高眼圧に比較的強く、発症から5年経っても失明しないケースがあります。
また片眼のみ発症している場合には、もう一方の正常な眼で視覚を補っているため、視覚の低下が分かりにくいことがあります。
基本的な生活に大きな変化が見られない場合でも、高いところに飛び上がることに失敗したり、物を追いかけて遊ばなくなったりすることもあるので注意が必要です。
続発性緑内障について
- 涙が増える
- 目を細める
- 瞬きをする回数が増える
- まぶたが痙攣する
これらは、いずれも眼に痛みがあるときに現れる症状です
原発性緑内障では、眼圧が上昇してもあまり痛みを表すネコちゃんがいませんが、続発性緑内障では眼を痛がるケースが多いです。
続発性緑内障の原因としてもっとも多いのがぶどう膜炎であり、この疾患自体が強い眼の痛みを伴うことが多いことも関係しています。
また続発性緑内障では、原因となる疾患の症状が加わるため、臨床症状だけから緑内障を推測することはしばしば困難になります。
眼球の充血
原発性緑内障と同様に、強膜血管の拡張が見られます。
さらに原因となる疾患によっては、白目全体が赤からピンク色に染まる結膜充血や、角膜に接する白目が赤黒く染まり細かい血管が角膜内に侵入する毛様充血が見られることがあります。
視覚の低下
原因となる疾患にもよりますが、続発性緑内障では原発性緑内障よりも視覚が急激に低下することが多く、失明に至るケースも少なくありません。
瞳孔の異常
原発性緑内障と同様に、瞳孔が開いてしまうネコちゃんがいます。
一方で、眼内に炎症が起こっている場合には瞳孔の大きさは一定ではありません。
虹彩(瞳孔の周囲の組織)が水晶体に癒着していることも少なくありません。
眼球が大きく膨らむ
高い眼圧が続くと強膜が伸び、眼球が大きく膨らんできます。これは原発性緑内障と同様の変化です。
ただし続発性緑内障では、病気の進行がより速いため注意が必要です。
また眼内に発生した腫瘍が原因となり、眼圧上昇と眼球拡大が起こっている場合もあります。
元気消失や食欲不振
眼の痛みが強い場合には、元気がなくなったり食欲が低下したりすることがあります。
また、こうした症状は眼の痛みだけでなく、背景にある全身性疾患の影響で起こる場合もあります。
続発性緑内障の原因となるぶどう膜炎は、さまざまな感染症や血液疾患によって引き起こされることがあります。
そのため、生命に関わる疾患が隠れている可能性も考慮する必要があります。
猫の緑内障の検査
緑内障の種類と原因
問診
緑内障そのものの診断は他の眼科検査で行うことができますが、問診は原発性緑内障と続発性緑内障を見分けるうえで重要な情報となります。
「いつ頃から眼の異常が見られるのか」「どのくらいの速さで悪化しているのか」といった経過は、治療方針を立てる際の大切な判断材料になります。
視診
視診では、左右の眼球の大きさの違いや、強膜上に見られる異常な血管の蛇行などを確認することができます。
触診
触診だけで眼圧を正確に推測することは困難です。しかし、まぶたの上から軽く眼球を押し、後方へ動くかどうかを確認します。
もし眼球の後方に腫れや腫瘍がある場合、眼球は後ろへ動きにくくなります。このような場合は、単なる緑内障として判断するのではなく、眼圧が高くても他の疾患の可能性を考慮する必要があります。
眼圧測定
眼圧測定は、緑内障の診断に欠かせない検査です。
ただしネコちゃんは、診察時の緊張などの影響で一時的に眼圧が高くなり、30mmHgを超えることも珍しくありません。そのため、測定値の解釈には注意が必要です。
眼底検査
緑内障は視神経が障害される疾患であるため、眼底検査によって視神経乳頭を直接観察し、その状態を評価することが診断の要となります(図9)。
ただしネコちゃんでは、正常な視神経乳頭の見た目が、緑内障でダメージを受けたワンちゃんの視神経乳頭と似ているため、診断には獣医師の経験が重要になります。


判断が難しい場合には、光干渉断層計(OCT)検査を用いて視神経乳頭の断層画像を撮影し、詳しく評価することがあります。
また、角膜の混濁によって視神経乳頭の観察が難しい場合には、走査型レーザー検眼鏡(SLO)検査を行うこともあります。
視覚検査
診察中のネコちゃんは緊張していることが多く、視覚検査の実施が難しい場合があります。
そのような場合でも、目の前に急に手をかざして瞬きをするかどうかを確認する威嚇まばたき反応や、目の前で綿球を落下させて目で追うかどうかを確認する綿球落下試験は比較的簡単に行うことができます。
スリットランプ検査
ネコちゃんの緑内障診断において必須の検査ではありませんが、スリットランプを用いて前眼部を詳しく観察することで、原発性か続発性かの判断に役立ちます。
特に続発性緑内障では、「なぜ眼圧が上がっているのか」という原因を特定するために重要な検査となります。

眼内に発生した腫瘍が眼圧上昇の原因となっていることもあるため(図10)、見落とさないよう注意が必要です。
また、慢性化した緑内障では角膜表面に問題が起こることも多く(図11)、これらを早期に発見できるというメリットもあります。


治療方法
内科治療
基本的には、眼圧を下げる点眼薬を使用して治療を行います。
1種類の点眼薬でコントロールできるネコちゃんもいますが、2種類以上を併用する場合もあります。
また、続発性緑内障では原因となる眼科疾患の治療も同時に行う必要があります。原因疾患の治療がうまくいくと、眼圧を下げる治療が不要になることもあります。
外科治療
房水の流れを改善する手術や、房水の産生を抑える手術などがあります。
ネコちゃんにも実施することは可能ですが、ご希望されるご家族が少ないため、実施されるケースは多くありません。
眼球摘出
以下のような場合には、眼球摘出術が検討されます。
- 視力の回復が見込めない場合
- 強い痛みがある場合
- 角膜に重大な障害が生じている場合
- 眼内に腫瘍の存在が疑われる場合
ワンちゃんでは、眼球の外観を保つためにインプラント(義眼)を挿入する手術が行われることがあります。
しかしネコちゃんでは、安全性が十分に確認されていないため、当院では実施していません。
予防方法・注意点など
- ネコちゃんの原発性緑内障はゆっくり進行するため、早期発見・早期治療が重要です。
- 定期的な健康診断の際には、眼圧測定を含む眼科検査を受けるようにしましょう。
- 緑内障によって障害を受けた視神経は回復しません。治療は長期にわたる可能性がありますが、獣医師の指示に従って点眼を続けましょう。
- ぶどう膜炎などの他の眼科疾患を早期に治療することで、緑内障の発症を防げる場合があります。
- 眼だけでなく、全身性の疾患にも注意が必要です。
- 下痢止め、咳止め、消炎鎮痛剤の中には、眼圧を上昇させる副作用を持つものがあります。使用する際は十分に注意してください。
